透析医療機関経営者に役立つコラム

患者生涯価値を考える!

透析マネジメント / 櫻堂渉のコラム / No.11 患者生涯価値を考える!

櫻堂渉のコラム

櫻堂渉のコラム

【2007年9月 No.11】

■患者生涯価値を考える!

大量生産・大量消費の高度成長の時代から今日まで、日本の産業を突き動かしてきた原理は旺盛な需要を背景として、「良い商品を、より安く」であった。
そのため、製造業を中心に「効率化」によってその要求に応えてきたが、バブル崩壊後のデフレと、アジア諸国の追撃を受けた結果もたらされた価格破壊によって多くの企業が利益を失い、ついにリストラに生き残りの道を求めざるを得なくなったのだ。

そこで、効率化に代わって注目されているのが顧客経験(Customer Experience)である。顧客は単に良い商品を安く買えば満足するのではなく、商品やサービスの満足度はもちろん、販売員との関係、売り場の雰囲気、店への信頼感といった全体をとおして得られる「経験」を買っているのだという指摘である。この顧客経験の質が高ければ顧客は満足し、店や商品に対する忠誠心や愛着心が生まれ、顧客ロイヤルティへと高まっていくわけである。

一度買ってくれた顧客に二度、三度と継続的に買ってもらうことが顧客価値の源泉であり、最も大切である。なぜなら、一度顧客になった人を維持するためのダイレクトメールやマス媒体を使った広告などのコストは、非常に高くつくからである。そして、広告費を投入したとしても、新規顧客が獲得できるとは限らない。このように一人の顧客から得るトータルの生涯利益を最大化することを目標とした新しいマーケティング手法では、顧客生涯価値(CLV:Customer Lifetime Value)に着目するのは当然であり、そこから生まれてきたのがワン・トゥ・ワンのマーケティング発想なのだ。

ワン・トゥ・ワン マーケティングへの発想転換が必要

医療機関は、物を売っているのではなく、患者に医療サービスを売っているのだから、医療機関こそがこのワン・トゥ・ワンのマーケティングの発想が求められる。
これまでの医療機関は、外来患者数、入院患者数など患者の顔の見えない数値を指標として、「新患と再来が前年より何パーセント増えた」とか、「当院のマーケットシェアはどれくらい」というような患者をマスとして捉える癖がついていた。こうした顔の見えない顧客の数や売上げを相手にした考え方だけでは、新規の顧客をどれだけ獲得するかを目標として突っ走ってきた大量生産・大量消費時代の企業と同じ過ちを犯すことになる。個別性を第一義とするのが医療だとすれば、医療機関こそがワン・トゥ・ワンのマーケティングの発想に基づいて患者志向をあらためて考え直さなければならない。特に透析医療においては、患者の生涯価値(Patient Lifetime Value)を冷静に計算する必要があると言えるだろう。

透析医療では、顧客維持が重要!

こうした新しいマーケティング手法を透析医療にあてはめて考えてみるとどうなるだろう。
透析の市場は新患の増加がもはや期待できない、いわば成熟期に入った市場と言えるが、アップセリング(固定客として繰り返し店を訪れ、継続的に商品を購入するだけでなく、より高価な商品を買うこと)や、クロスセリング(普段とは異なる商品を買うこと)は総合病院なら可能だとしても、単科の透析施設の場合は難しい。だから顧客維持の重要性がクローズアップされるのだ。このように考えると、透析医療における競争相手はもはや近隣の透析医療機関でないことがわかる。

院長がチャレンジすべきは、医師やスタッフが提供する医療の成果、即ち患者の生命予後である。維持期をいかに長期にわたって継続させられるか、いかにマンネリに陥らず、気を抜かずに患者のケアに当たれるかが透析施設の経営に直接の影響を与える重要なポイントとなる。

「医療における真のマーケティングとは?」
井関 利明先生(千葉商科大学政策情報学部長)のインタビュー記事を読む

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